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面における影響については、第一義的影響発生として、顕著にみられるのが藻場等の減少や質的変化に伴う魚貝類の変化にみられるところである。現在までのところ、工事に起因するとみられる影響はみられず、当該地区の漁業従事者からも報告はない状況にある。これは、?バイパス砂を現地の浜砂および近隣海底からの浚渫砂を用いていることにより土質上の性状が同一的であること。?浚渫砂を数ヶ月の間陸上保管し、降雨等を利用しシルト分の除去後に投入する方式を採用していること。?投入時期を水温の低い冬季に限定しているため、主要な藻場の発育前に実施完了となること等に起因すると推定される。

4. 天橋立海岸における今後の課題とその対策

サンドバイパス事業により天橋立海岸には広い砂浜が復活し、侵食対策事業としての効果をおさめた。しかしながら、近年における海岸をとりまく異境および海岸空間に対する国民のニーズは大きく変化している。天橋立海岸に対しても例外ではない。それは、突堤工法の宿命であるノコギリ歯状の汀線形状に対する不満としてあらわれている。京都府は、このノコギリ歯状の汀線をより自然で滑らかな連続性のある汀線形状に近づけるため、1990年より潜堤を用いた突堤付近の波高の低減・波向の制御による汀線改良工法の検討および現地施工を実施している。現在、大天橋中央部に図-9に示すような形式の異なる3基の潜堤を設置し、突堤直背後の汀線の前進効果を調査・評価中である。潜堤の設置は地曳網等の漁業活動に配慮して極力小規模に留めている。

潜堤設置と同時期に開始した追跡調査では、突堤No.24と28に設置した扇形浩堤によってその突堤直背後の汀線が前進し、砂の捕捉効果を確認している。京都府ではさらに、この工法の効果を工学的観点から明らかにするとともに、天橋立海岸全域への適用を踏まえた設計方法の目安を得るために、運輸省の協力を得て水理模型実験を実施し、解析を進めている。検討経過を簡単に述べると、1995年度には、潜堤天端幅、波長、潜堤沖側波高の諸元を用いて背後の波高を求める実験式を得た。これは、潜堤背後の波高と完全移動限界波高との関係から、必要港堤天増幅を求めるものである。1996年度には、実験式に基づいた潜堤を現地施工し、関係機関の協力のもと自然条件下における有効性の検証等を行う予定である。

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Fig.9 situation of the new method for modifying shoreline by submerged breakwater

5. 結語

以上において、侵食の原因および突堤というハード面の対応、さらには、サンドバイパスという自然状況に回帰したソフト的対策の経過を述べてきた。サンドバイパスの現地実施にあたっては、自然条件下において必要とされる砂の量を的確に把握し、汀線のみに着眼をおいた過度なバイパス量を避け、養浜砂としては必裏地域の土質性状に近いものを選択し、投入地区内の生態系の休眠期に実施することが相当であると考えられる。
また、運輸省および関係機関の多大なご協力とご支援のもと、京都府がこれまでに天橋立海岸に対して実施してきた突堤工法・養浜工法およびサンドバイパス工法の3つの工法の複合による海岸侵食対策により、天橋立海岸は白砂青松の美しい姿をとりもどした。このことは国土保全と景観保全との講和のとれた侵食対策の一つの成果として評価されうるものであると考えられる。今後は、実施工法の効果発現に着目するのみならず、景観および海岸環境に対する国民のニーズに配慮し、より自然な砂浜海岸の汀線形状を取り戻すべく努力をしていく所存である。
最後に、本報告を作成するにあたり、岩垣雄一京都大学名誉教授(現 名城大学理工学部教授)、運輸省第三港湾建設局の関係者各位より、天橋立海岸におけるサンドパイパス工法導入に際して、計画から実施に至るまで永きにわたり多大なご指導ご助力を賜った。また、汀線改良工法に関する水理模型実験を行うに際しては、運輸省港湾技術研究所関係者各位により多大なるこ指導、ご配慮を賜った。ここに記して深く感謝の意を表する次第である。

参者文献

矢島道夫・上薗 晃・矢内常夫・山田文雄(1982):天橋立におけるサンドパイパス工法の適用、第29回海岸工学講演会論文集、pp.304〜308
京都府港湾事務所(1987):宮津港天橋立海岸侵食対策調査報告書、pp.1-70
陳活雄・岩垣雄一(1992):砂階の形成と侵食に関する研究−天橋立海岸について−、海岸工学論文集第39巻、PP.371〜375
陳活雄・山田稔・土屋義人(1993):天橋立海岸におけるサンドバイパス工法による動的安定海浜の形成、海岸工学論文集 第40巻、pp.541〜545
Kyoto Prefecture(1994) : Sand bypassing project on the amanohashidate coast, Post conference tour -Beach Erosion Control Works In Japan -, pp. 3-12
鈴木康正・平石哲也・富樫宏次・高羽泰久・南 將人・岩垣雄一(1995):潜堤を用いた海浜安定工法に関する現地観測と模型実験、海岸工学論文集第42巻、pp.696〜700

 

 

 

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